渋谷心療内科・ゆうメンタルクリニック秘密コラム 「藤子・F・不二雄が最後に伝えた、人生をやり直すことの意味」
渋谷心療内科・ゆうメンタルクリニック秘密コラム
「藤子・F・不二雄が最後に伝えた、
人生をやり直すことの意味」
さてあなたは、藤子・F・不二雄先生をご存じでしょうか。
おそらく「知らない」という方は、ほとんどいないのではないでしょうか。
マンガの神さまといえば、もちろん手塚治虫先生ですが、個人的には、藤子・F・不二雄先生の方が好きだったりします。
さて先生と言えば、多くの方がご存じなのは、やはり「ドラえもん」や「パーマン」など、子供向けの作品ではないでしょうか。
しかし、先生は30代半ばころから、「SF短編集」というものを執筆されています。
その数、全部で112作。
子供にも大人にも楽しめる、いえ大人になってはじめて理解できるような内容でいっぱいです。
大人向けのファンタジーと言えますでしょうか。
これはホント、ドラえもんを楽しんだことのある、すべての大人に読んでほしい。
心からそう思います。
さて、それはそれとしまして。
ここでは、その中でも特にご紹介したい話があります。
それこそが、この話。
(c)藤子・F・不二雄/小学館・中央公論社(以下同じ)
タイトルは「分岐点」。
主人公である男性は、今、妻と結婚生活を送っています。
しかし妻は嫉妬深く、彼はあまり幸せではありません。
そんなとき、彼はある女性と再会します。
それは10年前に、結婚を考えていた、もう一人の女性。
彼は二人のうち、どちらと結婚するか迷った挙げ句、今の妻と結婚していたのです。
その女性がいまだに魅力的であることを再確認して帰宅すると、やはり妻は責めてきました。
攻撃はそれだけに留まりません。
あまりの状況に、彼は家から逃げ出します。
そんなときです。
一人のホームレスが「人生をやり直してみないか?」と言って来ました。
彼は思わずそれに「YES」と言います。
もちろん、やり直したい「分岐点」は、たった一つ。
10年前に戻って、もう一方の女性と結婚することです。
彼は言われるまま、分岐点に向かって、歩いていきます。
そして。
その分岐点から、もう一方の女性と結婚している人生を、歩くことができたのです!
あぁ、これでめでたしめでたし…と思いますでしょうか。
……しかし。
その女性も。
結婚した直後から、何度もイヤミを言うようになってきました。
そしてラストで、彼は娘にたいして、こう言います。
「おまえもやがて、人生の岐路に迷う日がくるだろう。
判断をあやまることのないよう、パパは祈るよ」
そう。
彼はやはり後悔し、「もう一方の女性と結婚しておけば」と、常に考えているわけです。
もちろん、その女性が嫉妬深くなる…ということはまったく知らず、「彼女なら、優しくてしとやかなのに」なんて考えているかもしれません。
非常に切なくシニカルな話です。
あえて一言で言うなら、「どんなにやり直しても、結局は同じだよ」ということになりますでしょうか。
この話はとても趣深く、人生でやり直しを考える人にとって、一つの指針になるかもしれません。
この話を藤子先生が描かれたのは、40代前半のときです。
もしかしてですが…。
先生自身、心のどこかで、自分にそう言い聞かせている部分があったのかもしれません。
しかし。
実は先生が57歳のときに描かれた「未来の想い出」という話があります。
こちらは短編ではなく、長編です。
この話の主人公はマンガ家。
彼は少しイヤミな女性と結婚し、あまり満たされない生活を送っています。
ストレスを抱えつつ、ゴルフに向かう主人公。
そのときです。
彼はゴルフで、ホールインワンを出しました。
その喜びのショックで彼の意識は飛んでしまい…。
過去に戻ってしまいました。
ただ彼には「やり直した」という記憶がないため、同じ人生を、そのままもう一度繰り返すことになります。
その中で、彼の憧れの女性であった「晶子」と出会います。
晶子はヌ―ドモデルとして生計を立てていました。
話はそれますが、藤子不二雄先生の作品で「エスパー魔美」というものがありまして。
その中でも、ヒロインが、父親の描く絵のヌ―ドモデルになる、という、よくよく考えると結構アブノーマルなシーンがあります。
藤子先生、結構、こういうシーンが大好きです。
そういえば、かの「ドラえもん」でも、しずかちゃんの入浴シーンが何度も出てきました。
自分自身が、「マンガで分かる心療内科」の中でセクシー系なシーンを多発するのは、決して自分の趣味ではなく、藤子不二雄先生への憧れによるものであるとご理解ください。
…うん。そういうことに。
いずれにしても、とにかく彼はその晶子と恋愛関係になるわけです。
しかし。
晶子の父親が倒産し、自殺。
そしてそれにより、火事に包まれ、本人も亡くなってしまいました。
その失意の中、彼は、
現在の女性と結婚することになったのです。
そしてまったく同じ人生を送り…。
それを繰り返すはずだったのですが…。
ただ途中、彼は交通事故にあい、「自分が同じ人生を繰り返していること」を把握します。
その結果、「自分の人生を、変えてやろう!」と考えるのです。
それを決心し、やり直しの当日、彼は現在の妻に言います。
「ぼくはいい夫じゃなかった」
「新しい人生では、ぜひ幸せになってください……」
味わい深いです。
最初に紹介した作品「分岐点」では、現在の妻に、何のあいさつもなくやり直したのと、対比的です。
一方的ではありますが、明確に「決別」しています。
そして彼は、その記憶をもとに人生をやり直しますが…。
運命は非情です。
彼がどんなに頑張っても、晶子は再び、火事に包まれてしまいます。
しかし…!
彼は身を捨てて、彼女の元へ走りました。
その、結果。
彼は運命に打ち勝ち…。
晶子と、幸せな人生を「やり直す」ことに、成功したのです。
以上、二つの作品の違い、いかがでしたでしょうか。
40代前半のころに描かれた「分岐点」では「やり直しても意味がない」と語っているにも関わらず。
50代後半の「未来の想い出」では、「やり直しで、本当の幸せを手に入れている」のです。
これ、どちらが正しい、ということはないと思います。
それぞれに真実ではないでしょうか。
ただ。
僕は思います。
「やり直しても意味がない」というのは、より分かりやすくいえば、「誰もが憧れる理想の幸せなんて、世の中に存在しない」というのと同じです。
でも。その先生が。
62歳で亡くなる、その数年前。
人生の最後にして、
「でもやはり、この世の中のどこかに、その理想の幸せは存在する」
という考えに至った…。
これが、とても切なく…。
それでいてとてもあたたかく、僕の心に刺さります。
あなたは、いかがでしょうか?
「やり直してもしょうがない」「やり直しには意味がある」
どちらの考えの方が、しっくり来ますでしょうか?
重ねて僕は、どちらも真実ではないかと思います。
であれば。
やり直すにしても、今の道を進むにしても。
あなたの信じた方向に向かっていけば、いいだけなんですよ。
(完)
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
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ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。