渋谷心療内科・ゆうメンタルクリニック秘密コラム 「HUNTER×HUNTERと徒然草に学ぶ、『勝っちゃダメ』な理由」

 

渋谷心療内科・ゆうメンタルクリニック秘密コラム

「HUNTER×HUNTERと徒然草に学ぶ、
『勝っちゃダメ』な理由」

 

 

さてあなたは、週刊少年ジャンプにて絶賛休載中の、
HUNTER×HUNTER」(ハンターハンター)というマンガをご存じでしょうか?

登場人物たちが、念といわれる超能力を駆使し、さまざまなものを「HUNT」(狩り)するマンガなんですが。

その中に、パリストンという敵キャラが出てきます。

(c)集英社/冨樫義博(以下同じ)


フルネームは「パリストン・ヒル」で、間違いなく、どこかのホテルセレブが名前の元ネタなんですが。

この人物が、個人的にすごく面白いと思いのです。

彼は決して、「戦いが強い」キャラではありません。

しかしながら、悪として、そして人間として、最大の強さを持っているキャラではないかと思います。

 

では具体的に、どんな強さなのか?

一言で言うと、「勝とうとしない」ところです。

彼と対照的に描かれるのが、「チードル」というキャラクタ。

 

彼女はこう言います。

「どうしたらアイツに勝てるの?」

するとこう教えられます。

 

「アイツは、勝とうと思ってない」
「負けようとも思っていない」

「だから強いんだ」

これを見て、自分は「なるほどなぁ」と思ったのですが。

あなたは、意味が分かりますでしょうか。

実はかの古典「徒然草」の第110段に、こんな内容があります。

———————————–

双六の上手といひし人に、その手立を問ひ侍りしかば、

「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。いづれの手か疾く負けぬべきと案じて、その手を使はずして、一目なりともおそく負くべき手につくべし」と言ふ。

道を知れる教、身を治め、国を保たん道も、またしかなり。

———————————–

 

くだけた現代語で訳すなら、こうなります。

 

———————————–

双六ゲームがうまい人に、「どうやってんの?」って聞いたんだ。そうしたら、

「勝とうとして打っちゃダメだ。負けないように打つべきなんだ。
『この手を打ったら、負けちゃうかも…!』
って手は絶対に使わないで、少しでも負けるのが遅くなる手を打っていくべきなんだよ」

って言ってた。

ホント、道を極めた人の言葉だよなぁ。
これ、自分を磨き、国を治める方法にも通じるかもしれないね。

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この「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。」という言葉、ものすごく深いと思うのですが、いかがでしょうか。

ここにでてくる「双六」。

現代の、サイコロを振って進めてゴールを目指す遊びではありません。

 

サイコロは使いますが、考え戦いあうゲームで、将棋や囲碁みたいなものに近いと考えていただいた方がいいかもしれません。

すなわちまぁ「双六の上手」というのは「ゲームのプロ」です。

この人が言うには、ゲームの秘訣は、とにかく

「勝とうとするな。負けないようにしろ」

ということになるわけです。

 

すなわちこのHUNTER×HUNTERの「パリストン」の哲学は、徒然草にも書かれている内容であり、それこそが「最大の勝負のコツ」だというわけです。

これは偶然の一致なのでしょうか。
徒然草が、いつか「TSURE×DSURE 草」と言われる日も近いかもしれません。近くないですか。

さてこの「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。」の理由について、この徒然草では、何も書いてありません。

しかし自分なりに理由づけるなら、このようになります。

 

◆ 勝つのを願うことは…?

まず何より、勝とうと思うほど、スキができます。
剣道なら、振りかぶった瞬間に胴がガラ空きになりますし、ボクシングなら、カウンターバンチを狙われます。

また「勝とうとする」というのは、それだけ相手をナメているということでもあります。

「こんな手を取ったら、相手は真の狙いに気づかないだろう…! いや、気づいてほしくない…!」

そんな風に、思考をストップさせます。

くわえて「相手は低レベルの人間に違いない」という願望が湧いてきます。

その油断から、足下をすくわれる危険性もあります。

またそれ以上の思考をストップさせてしまうことから、同じく自分も低レベルな人間にどんどん変化していきます。成長はありません。

逆に「負けないようにする」人の場合、常に相手の能力を高く見積もります。

「この手をしたときに、もしそれ以上の返し手を打たれたら…?」

「もっとスゴイ手が潜んでるかもしれない…!」

 

そう考え続ける結果、自分自身のレベルも上がっていきます。

これを繰り返せば、最終的に強くなっていくのは、もちろん後者です。

実際にライバルであるチードルは、何度もこう言います。

「もうムリよ」
「ムダよ!」

すなわちこのキャラは「勝つ」ことしか念頭になく、そのため相手を「ナメている」わけです。
その結果、相手の取り得る手段にたいして思考がストップし、結局は負けてしまいます。

 

◆ 勝つというのは、戦いがイヤということ。

さらに「勝ちたい!」というのは、ウラを返せば、「早く勝って、勝負を終えて、ラクになりたい!」という気持ちの表れでもあります。

すなわち「この勝負がつらい」と思っているわけです。

 

しかし「負けないようにしたい」というのは、それだけ長期勝負になっても大丈夫という「覚悟」があります。

その結果、積極的に「楽しもう」と思えることもあるかもしれません。

「水から早く出たい!」と思ってる人と、「水が好き! 潜るのが好き!」という人。

二人が「長く水に潜る対決」をしたら、おそらく勝つのは後者です。

マンガでも「アイツはただ楽しみたい」と言われています。

 

それにたいしてチードルは、ただ焦り、イヤがることしかできません。
結果、負けてしまいます。

 

◆ 勝つのは一瞬。しかし「負けない」のは…?

さらに人生全部で考えるなら…。

もっと大きな差が生まれます。

「勝つ」というのは、一瞬のことです。

一度でも「勝ったぁ!」があれば、達成されます。

極端な話、ある日、ある時間だけ頑張れば、「勝つ」ことは可能です。

しかし「負けない」というのは、「長期的な状態」です。

それこそ「一度も負けない」ために、一生に渡って、努力を続けなくてはなりません。

たとえばですが、
「俺も昔はスゴイ仕事を任されててさぁ」
「私も若いころはモテたんだよ」
と話してばかりいて、今は何もしていない人は、魅力的でしょうか?

おそらくNOのはずです。

しかし今、毎日、負けないように頑張って働いている人は、それだけでも十分、魅力があるはずです。

一度だけ何かで勝つことは、実は大したことではありません。
大切なのは、「負けない」という状態を、ずっと貫いていくことなのです。

このパリストンというキャラクタも、最終的に勝負を制しました。

その勝因を、自分でこう説明します。

想像の中で、「ボクは決して勝てないと思った」。

常に最悪の事態を考えて、そうならないように行動したのです。

 

さらにこんなセリフまで。

彼は敵である「ジン」というキャラクタを、「敵として信頼している」と。

だからこそ、敵として、最高の方法を取ってくることを「信じている」

そう期待した上で、それに特化した最大限の対抗策を取ったからこそ、彼の手に、勝利が転がり込んできたのです。

一種、すがすがしさすら感じます。

一般的なバトルマンガでは、「仲間の力を信じている」というセリフがよくあります。
しかしそれ、この流れで言うと「ダメな考え方」になります。
それは「仲間の力が、想定より低かった場合」を考えていないから。その場合、もちろん負けます。

そういう意味で「敵の力を信じている」という方が、よっぽど立派で、素晴らしい考え方だと思うのです。

◆ 「負けない」方が、実は楽しい。

さて、こう考えると「勝つ」より「負けないようにする」という方が、ずっとハードで、重要なことだと分かりましたでしょうか?

いやでも、だからといって「そんなに大変なこと、できないよ」と思う必要はありません。

考えようによっては、ずっと面白く、長く続けられることだったりします。

それこそゲームで言うなら、毎日「ミニゲーム」を繰り返すのと一緒です。

 

昔「インベーダーゲーム」というのがありました。

少しずつ下に攻めてくるインベーダーたちを撃退するゲームです。

そのステージの敵をすべて倒せばクリアですが、このステージは無限に続きます。

 

相手のボスを倒してそれで完全クリア、などはありません。

結局のところ「防戦」ですが、それでも大ブームになりました。

 

実際、多くの方がプレイしている「ケータイゲーム」も、大半はミニゲームです。

逆に「どこにいるか分からない魔王を、何週間も何ヶ月もかけて見つけて倒す」という大作ゲームは、少し前に流行しましたが、現在、そんなにプレイヤーは多くありません。

「いつか大きく勝つ」よりも「毎日、防戦に成功する」という方が、ずっと分かりやすく、楽しいもの…。

そう考えることもできます。

このパリストンも、常にニコニコと笑い…。

 

「負けない」ために、積極的に自分が大変になる提案をし、それを楽しんでいます。

「負けない」ことは、何より人をイキイキとさせる…。
そんなメッセージが隠れているかもしれません。

 

◆ 負けないための方法とは…?

いずれにしても大切なのは、「負けない」こと。

負けなければ、勝負の途中で、ライバルが悪手を打つかもしれません。

つい疲れてスキを見せたり、降参してくるかもしれません。

一見遠回りに見えますが、何よりベストな勝負方法なのです。

 

では、「負けない」ためには、どうしたらいいのでしょうか?

 

その方法は、大きく2つあります。

 

◆ 自分がつらいときは…?

1つ目。

「自分がつらいときは、相手もつらい」と考えること。

 

あなたがまだ勝負を続けているということは、実は相手と「同レベル」なのです。

もしまったく実力が違いすぎるなら、「負けないようにする」なんて考える間もなく、瞬殺されています。

今「負けないようにする!」と考えているということは、なんだかんだいいつつも、同じレベルの戦いをしています。

ですのでとにかく「つらいのは、自分だけではない」ということを思い出して、まずは安心してください。

 

◆ あと30分だけ、立っていよう。

そしてもう1つ。

「相手もつらい」という前提のもと、「あと30分だけ、この場に立っていよう」と考えることです。

何を言われても、どんな攻撃をされても、決して負けを認めない。

どんな反論をしてもいいですし、また聞き流すだけでも構いません。

 

決して逃げたり降参したりせず、ただその戦場で、「あと30分だけ立っていよう」と考えること。

 

交渉場面なら、交渉をあと30分は、あきらめず、続ける。

そのうちに切り口や光明が見えてくるかもしれません。
 

または恋愛でも同じです。

どんなデートでもそうですが、「この言葉だけで、どんな相手でも、一発で落とせるセリフ」というのは、そうそう存在しません。

それは、それこそ「勝つ」ための方法。

そういう言葉を求めすぎると、勝負が危うくなります。

それより、とにかくジワジワした好意を示しつつ、デートを続けることが大切。

 

その途中で、

「相手に恋人がいることが判明」

「相手の態度が少しイヤに感じた」

「告白しても、相手の反応があまり良くない」

など、あなたのテンションが落ちることだって、多々あるかもしれません。

 

しかし!

そこでもやはり「負け」てはダメです。

そのときでも、「あと30分はデートを続け、口説き続けよう」と考えること。

これができれば、相手の中に好意だって生まれてきますし、最終的にもっともモテていくのです。

 

 

◆ たとえどんな戦いでも。

これは1対1ではない戦いでも同じです。

たとえ世界中の人が相手であっても。

やはりあなたが「つらい」と思うことなら、みんなが「つらい」と思っています。

 

そんなとき「隣の人より、あと30分でも長く立っていよう」と考えること。

30分後には、今よりももっと気軽に戦っていられるかもしれません。

何かの発見だってあるかもしれません。

そして30分後に負けそうになったら「あと30分」と考えてください。
もちろんどこかで限界は来るかもしれませんが、「あと30分」という考え方を知らない人より、ずっと長く負けないでいられるはずです。
 

重ねて、これこそが最大の勝負の「コツ」なのです。

 

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◆ 今回のまとめ。
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○ 勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。

○ 勝つことより、負けまいとすることは、よっぽど難しく、そして楽しい。

○ 負けないために大切なのは「あと30分だけ、ここで立っていよう」と考えること。

 

 

◆ さいごに。


人生における、一番大きな「負け」は何でしょうか?

言うまでもありません。

「死ぬ」ことです。

 

死んでしまったら、もう再起することもできません。

あなたがどんな状況でも、死ぬことだけは選ばないでください。

 

そう。
生きてさえいれば、「負けではない」んです。

あなたが今日、こうして生きているなら、あなたは昨日まで、負けてこなかったんです。

だから、気持ちを楽にしてください。

 

では二番目に大きな「負け」は?

それこそが「不戦敗」です。

何かをしたいと思ったのに、何もしない。先延ばしにする。

そして永遠に、勝負の盤上にすら、上れない。

これは不戦敗であり、二番目に大きな「負け」です。

 

 

たとえ、勝たなくてもいいんです。

もし失敗したとしても、何度でも軌道修正をしながら、再チャレンジできます。

それを繰り返している限り、あなたは「負け」ではありません。

重ねて言います。

 

「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。」

 

「負けない」ことは「勝つ」ことより、ずっと大切なんですよ。

 

(完)

ちなみにこのHUNTER×HUNTER。

少年誌のワクを超えたドラマもあり、本当にスゴいマンガだと思います。

作者さんが休載さえしなければ。

いずれにしても、オススメですので、ぜひ。

 

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

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ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。